地域社会の公共性の基盤となる思想を米国から逆輸入し、 サンデルらの主導するコミュニタリアニズムに頼ったドイツでは、 フランクフルト学派の企図した通り、 かつてテニアスが提唱した伝統的な「民族共同体」(Volksgemeinschaft) 的着想を破壊することに成功を収めた。 しかし、 ドイツの地域共同体からは自国の歴史・文化・伝統が失われた。 そのため、価値の相対性を認めるコミュニタリアニズムの思想は、 むしろ「人々の繋がり・関係性を破壊する」思想であり、 「国内の政情を混乱に落としめる」ものとして警戒されている。 ドイツの政治学者レーゼ=シェーファーは、 移民が急速に増加する傾向にある現在、 ハーバーマスが米国から輸入したコミュニタリアニズムが、 米国的な文化多元主義の発想とジンテーゼを起こしつつあるとした上で、 「共有されるべき価値基準を持たないまま様々な文化圏から多様な宗教や多元的な道徳観念が持ち込まれるならば、 社会の内部に無数のゲットーが形成されてしまう。」と次のように結論している。 「(サンデル的なコミュニタリアニズムの発想は、 わが国ドイツにおいて)集団的排斥主義を帰結しかねない。 これは、集団個別主義/集団至上主義的なゲットーの形成、 つまり、排他的で特殊な『市民感覚・市民感情』によって結ばれたゲットーの形成を促す。 そのため、民主主義的な公共性そのものの崩壊をもたらしかねない。」 "... Das Resultat ware ein Gruppenautoritarismus, der bewirken wurde, dass das demokratische Gemeinwesen zerfallt "in Kulturghettos der Kollektive, die jeweils ihren eigenen, d.h. partikularistischen 'Burgersinn' haben." 西部邁(元東京大学教授)は、 正義とは何かについて 「エミール・デュルケーム的な社会学的集合表象」 と 「ある種全体主義的な国家をはじめとするコミュニティにおける、全体的な政治的な決断の場面」 が抜け落ちているとして、 サンデルの著書『これからの「正義」の話をしよう』を批判した。